佐野洋子 作・絵
あらすじ
生まれて死ぬことを繰り返している
とらねこが主人公。
飼い主や周りの環境は
生まれ変わるその都度違っているのに
幸せそうではありません。
初めて飼い主がいない
野良猫としての生が始まってからが
物語の本番です。
白い猫と出会い、
彼女が息を引き取るその時まで
生きる時間を共有します。
生まれ変わった回数と同じくらい
泣いた後、彼もこの世を去りますが
もう二度と生き返りませんでした。
感想
佐野先生の言葉の選び方に痺れます。
「〇〇なんかきらい」
「××なんかだいきらい」
嫌いな理由が描写されていないんですよね。
嫌いなものは嫌いという
言い切りな感じがたまりません。
物語から常に己に正直であれという
解釈をしてしまいます。
猫の毛並みや目の力強さ、
ミステリアスな感じ、
なんとも言えない存在感があって
引き込まれるイラストです。
幼少時代の記憶では
もっと濃い色の絵本だったのですが
今見ると記憶よりも
淡いカラーが基調の作品でした。
作品のパワーに圧倒されて
その力強さが色の濃さに置き換わって
記憶として残ったのだと思います。
生き返らなかった理由
読んだ人に委ねられている感じです。
そもそも死んで生まれ変わることを
彼自身が望んで行っていたのか、
それとも気づいたら生きて死に生きて…
という流れにいたのか。
生まれるかどうかは自分で選べて、
その生きていく環境は選べないのかな?と
文面から想像し、それを前提にして
生き返らなかった理由を考えていきます。
彼は自分の裁量で選び、
決めて暮らしていく中で
愛する人と出会い、
大切な存在が増えて
心の容量がぐっと増え、
幸せを感じる場面が
今までの人生よりも
ずっと多くあったと思います。
以下の三点が思い浮かびました。
- 自分が愛することを経験し、
満足した。
彼女を愛し抜いたことで
彼の中の生まれ変わりたい欲が
浄化された。 - 彼女とずっと一緒にいたいと
思っていたが、それはおそらく
今後叶わないので
生まれる必要はないと考えた。 - 彼女を失った悲しみで
生まれ変わる気力が尽きた。
愛した存在を失うことを
再度経験したくないと思った。
個人的には1番目の理由が
しっくり来ています。
この物語はなんて悲しいお話、
猫もきらいきらいって言ってばかりで
なんか意地悪…と子ども時代には
ネガティブな感想が多めでした。
それでもずっと心と記憶に残っていました。
今家族のいる身になった状況で読むと
自分に正直に生き、
愛する人と暮らして
その人を看取ることができ、
幸せな生を彼は全うしたのではないか
とも感じています。
何が幸せなのか
正直になること、
自分で選択・決断して行動すること、
他者を愛することが
幸せの基盤になっていると
この作品から感じました。